KAKKA is not 閣下

Drivemodeというシリコンバレーのスタートアップでエンジニア、2019年9月に某自動車会社にExit、某自動車会社のDX推進のリード、「みてね」のエンジニアリング組織マネジメント。 CSP-SM(認定スクラムプロフェッショナル)、メタルドラマー。 ex:Drivemode(Honda), Drivemode、リクルート、MIXI、NAIST Twitter→@KAKKA_Blog

Digital Transformation(DX)をやろう。

お久しぶりです、DrivemodeのKAKKA(@KAKKA_Blog)です。
CTOA Advent Calendar10日目のバトンを受け取りましたので書かせていただきます。
ソフトウェアエンジニアとしてシリコンバレースタートアップやメガベンチャー、日系大企業など多様な組織で働き、その中でもっとエンジニアリングを効果的にしようと色んな仕事に手を出していたらもはやコードを書く機会がほとんどなくなってきました。そのシリコンバレースタートアップが某自動車メーカーにExitした流れで、現在はDXをリードするお仕事が多くなってきてます。
今回はDXってなに?なんでやるの?どうやるの?みたいな超レッドオーシャン的な記事を改めて自分用に書いてみようと思いました。よって本記事は筆者自身がDXに真剣に向き合うにあたって、過去の知識や経験をもとに日々考えていることを整理しながらアウトプットしているため、リファレンス元を明確にした科学的事実や新しい発見などについてを述べているものではないですし、ちょっと散らかった話になっているかもしれないということを予めご了承ください。

DXの目的:なぜDXするのか

シンプルにいうと、今後のビジネスにおける競争力を上げることだと思います。それは単に、社内の守りのIT部と戦って業務改善ソフトウェアの導入をすることでもないし、AIやソフトウェアによって仕事の自動化を進めて経費削減することでもありません。しかしそれらが効果なしというのも間違いだとも思います。中にはそれだけでDXをやり終えることだってありますが、世の中でこんなにもDXが行われているのは、ビジネスを成功させるために把握しなければならない市場ニーズがあまりにも不確実で変化が速いからです。そしてこれに適応するためには、企業に何かしらの変化を加えて、企業を何かしらの状態にすることで適応していかなければなりません。

何かしらの状態とは

すごくシンプルな言い方をすると、組織のAgilityが圧倒的に高まった状態であると考えています。つまり組織のAgilityを圧倒的に高める事によって、不確実で変化の激しい今後のビジネスにおいて高い競争力で利益を上げていく、という論理ができます。

Agilityとは何か

次に組織のAgilityとはなにか、単に直訳した場合「速さ」ですが、それは人間の個人の能力を限界突破してAGIポイント振りまくるみたいなことではありません。常人のAGIのパラメータで、組織のボトルネックを徹底的に排除し、そして最大限仕事を効果的・効率的にし、常人の素早さが最大限生かされる状態のことをAgilityが高いと考えています。なぜなら個人のAgilityや強力な専門能力は組織のボトルネックによって簡単に無意味なものにされてしまうからです。個人の成長も大切ですが、もっと大切なのはその土台であると考えています。これは軍事やビジネスで考慮されるランチェスター戦略における、質✕量=強さという考えではうまくいかないのだということを意味しています。事実、ドイツの電撃戦や1980年代のホンダヤマハ戦争、昨今のテクノロジー企業の急成長など、戦争やビジネスでもランチェスター戦略における弱者が、Agilityによって勝利するということが確認されてきました。このことから、高い給料を払って優秀なデジタル人材をたくさん採用し、定着させることやテレビCMをバンバン流して宣伝することは時には強力だと認識しつつも、その土台がなければ全く意味がないということも言えます。
よって組織のAgilityが圧倒的に高まった状態に持っていくために手を加えなければならないことは、結局ビジネス戦略、組織構造、マネジメント、人事、採用、カルチャー、プロセス、システム、ツール、セキュリティポリシーなど途方も無いくらい広範囲になってしまいます。

DX後の組織ビジョン

DXしたらどんな組織になるのか?Agility高い状態ってつまりどんな感じなのか?という質問にうまく答えられなかった経験があります。「データによるとDXに成功したら、そうじゃない会社に比べて利益がこれくらい増えます」とか全然答えとしても違うし、「アジャイルな感じで仮説検証回してます」とか「自律的な意思決定ができていてかつ同じもの目指している状態」とかも、正しいとはいえ実際見たことがない人にとってはイメージしづらいだろうと思います。なので組織の設計はどうなっており、その中にいる人達の価値観や行動パターンはどんな感じなのか、認識合わせをどうすればよいかを考えてみます。

MissionとVisionを認識合わせる

その組織の存在意義の確認です。存在意義がない組織なんて存在しませんし、組織を定義した人によるなんらかの意図があるはずなので、明確にします。ちなみにここでいうVisionは現時点の組織において定義されているVisionであり、現時点の組織において定義されているMissionを達成したときの顧客を取り巻く世界の状態のほうを表しています。DXしたあとどんなかんじになるの?という話とは少し違います。
この時点で、目指しているものが確かに方向性が違うことを感じ、DXを行う必要性が感じられなかったら、そのDXプロジェクトは失敗することだろうと思います。ここを確認し、少なくとも不確実で変化の早い市場ニーズに対して競争力を上げていくような方向性であることを確認しなければなりません。それから下記のように解像度を上げていきます。

組織図を書いてみる

デジタル業界にいる人達にとってはとても自然で書くまでもないことかと思うかもしれませんが、やはり世界は広く、様々な組織図があるものです。なので実際に組織図とポジション、責任権限とKPIなどを書いてみるとかなりイメージが合わせやすくなります。先にソリューション的なものを見せるアプローチも違和感があるかもしれませんが、その構造になるセオリーの説明は一旦すっ飛ばして、絵をチラ見せすることでビジョンの解像度が高まるはずです。

Valueを詳細に言語化してみる

絵に加えて言葉でも補足してみます。私自身も様々なチームに在籍し、作り、運用し、外から見てもきましたが、その中でも、主観的にも客観的にも良いチームを作れたときがありました。それらに共通することはなんだったのかを書き出し、少しずつアップデートして言語化したものを下記に書いてみます。私の場合、現時点ではこれを良い組織文化の価値観のゴールとして設定することは、十分に難易度が高く、どれも理想的で目指し続けられるものだと考えています。しかし中身にも書いてますが、これも完璧なものではありません。

Agile

不確実で変化の激しい市場ニーズに適応するために、アジャイルになろう。

プロダクトバリュファースト
社内の事情よりも、プロダクトの価値が最も大切だ。価値があるかどうか、正解はユーザーしか教えてくれない。

動くものを早く作ろう
内部的進捗や価値のわからないコンポーネントに時間を費やすのではなく、ユーザーに提供可能な動くものを優先して作ろう。

ルールやガイドラインを効果的に使おう
形骸化したルールも邪魔だが、無法地帯も効果的ではない。適切にメンテナンスされたルールやガイドラインで効果的に働こう。

一緒に働こう
同じ空間で働き、コミュニケーションをとり、お互いを尊敬しあってチームのパフォーマンスを最大化しよう。

Scientific

ポジションや役割にとらわれずに、客観的事実や数字とともに話そう.

客観的事実や数字を重視しよう
いろんなアイデアやコメントフィードバックも十分に価値があると理解しながら、客観的事実や数字をより重視しよう。

実験と評価をしよう
小さく速く試して、結果を得よう。プロダクトに関してだけではなく、組織やマネジメントに対しても同様だ。

再現可能な改善行おう
サイエンティフィックに働いていたら、それが再現可能な知見となり、組織が継続的に成長していくはずだ。

Transparent

透明性を徹底的に上げることで、みんながセルフマネジメントし、リーダーシップを発揮できるようになる。

正直になろう
自分にとって不都合なことでもオープンに共有しよう。それはみんなにとっての知見となり、長期的にプラスになるはずだ。

情報を整理しよう
一見して理解しやすい内容のほうが、結果的に伝わりやすいはずだ。

意識的に情報をオープンにしよう
どの情報がどの人に必要かなんて毎度正確に分かるはずがない。誰かを伝達者とするのではなく、みんなが同時に同じ情報にアクセスできるようにしよう

傾聴しよう
リアクションする前に最後まで聞いて理解しよう

一対多コミュニケーション
チームを重視しよう。私とあなたの会話内容もまた情報だ。

Free and Responsible

与えられた役割にとらわれず、何事も行い、そして責任も持とう。

お互いに徹底的にフェアな関係になろう
ポジションや役割にとらわれず肯定、否定、質問、反対しよう。それと同時に人の意見も傾聴しよう。

自分で意思決定し、セルフマネジメントしよう
自律的な意思決定とセルマネジメントによって組織のAgilityが上がるはずだ。それができない場合、ボトルネックを探そう。

我々はみんなロックスターだ
我々はあなたが殻を破って、大きなことを変えようとすることを応援する。

Progressive

組織は現実的ではないほど高いビジョンに向かって、継続的に進化していこうとする姿勢が必要だ。我々は今、完璧ではないのだ。

ゴールはいつも遠い
我々がいくらすごいことをして、自分たちが素晴らしいと思っても、ゴールはいつも到達できないほどに遠い。だから歩み続けないといけない。このドキュメントもまた完璧ではないことはわかっている。

いろんなことに興味を持とう
それがあなたの強みだ。組織に多様性をもたせてくれる。

失敗を認め、そこから学ぼう
成功したと断言するのはまだ早い。未来は学びのほうを欲している。

どうやってAgilityを圧倒的に上げるのか

目指すべきところが見えて、そこを目指す理由も明確になったところで、Howについて考えていきます。

ソフトウェアの活用

銀の弾丸とまでは言いませんが、Agility強化のためのあまりにも強力な要素であるから、ソフトウェアファーストという言葉も世間に馴染んできました。ソフトウェアの活用はビジネスと組織のAgilityを圧倒的に上げてくれます。ソフトウェアの特徴である少人数で大多数に素早く影響を与えることができるScalabilityと、正解を見つけるための要素がリアルタイムに目に見えて観測できるObservablilityにより、顧客との接点にソフトウェアを絡めることで、真実を、素早く知り、価値を、素早く、大多数に届けることができるようになります。しかしソフトウェア開発は複雑で、専門性の高いスキルが必要なので、専門家にやってもらう他はありません。

デジタル人材の採用・内製か、外注か

ソフトウェア開発ではもはやみなさんがよくご存知のAgileという言葉があります。ここでのAgileな組織の意味はAgile Manifesto及びその原則が組織に定着している状態であるとすると、上記までのAgilityとは少しニュアンスというか意味を成すスコープが違いますが、まぁそれでもAgileであるということはAgilityにかなり強いインパクトを与えるし、かなり重要だと考えています。一方でかなり厳密なアジャイルプロジェクトは内製開発でも外注でも可能ではあります。しかし内製開発のほうが圧倒的に有利であることは間違い無いと思います。組織に所属している/していないのその差だけで、カルチャーも変わってきますし、そんなハンディキャップのなかでAgile Manifesto及びその原則を忠実に守るのは難しいかと思います。制約条件があるから守らない(守れない)だと、うまく行かなくなります。
またAgileな組織文化に加えて、データやシステム、デザイン領域における高度な専門性を育て、組織に定着させるという点においても、外のそういった機能に頼るよりも、それらを直接組織に持っておくということのほうがどう考えても有利です。

デジタル人材の採用と定着・ポジティブな退職

というわけでデジタル人材を採用し、Agileなソフトウェア内製開発を行い、不確実で変化の早い市場ニーズに価値を届けるプロダクトを開発するんだという方向で事が進みます。ここで採用してもすぐにネガティブな理由により退職される場合、完全に土台作りに失敗しているといっても過言ではありません。ここをどのように解決するかを考えるととんでもないボリュームになりそうなのですっ飛ばしますが、要はデジタル人材が定着してくれるような土台作りが必要となってきます。その結果、デジタル人材が定着してくれ、退職するにしてもポジティブな退職であればそれは会社にとってもポジティブな結果になることが多いはずです。この土台作りが組織文化などに強く関連しています。

組織文化

組織文化という言葉がビッグワードであるものの、そのAgilityに対する重要性は非常に高く、基礎となると言われています。オランダの社会心理学者であるホフステードで代表されるように、玉ねぎ型モデルでしばしば表される文化ですが、一番コアな部分の価値観は変えられないものである一方その外側にある儀式、英雄、シンボルなどは理解し、変えていくことができるとされています。だからこそ、ここを野放しにしては組織文化が崩れてしまうといっても過言ではありません。
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アジャイルスクラムの文脈でもここは明確にして話されることが多い印象です。
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ちょうど中心部分はAgile Manifestoに定義される価値・原則に当たりますし、スクラムにおいてもスクラムガイドで明確に定義されています。そして重要なのはプロセス・プラクティスなどはその上に乗っかるものということです。プロセスやプラクティスからは文化のコアを変えられないということです。例えばアジャイルなプラクティスを導入したところで、組織文化がまるっとアジャイルになるわけではないというと多くの方が経験してるのではないでしょうか。組織のコアな部分を定義する必要があります。それぞれの人に根付いたのコアの価値観は変えられない一方で、他者の価値観を理解し、周辺の儀式、英雄、シンボルをアダプトさせるためです。
よく用いられているのがMission、VisionValueであり、これが組織がどんな状態なのか(目指しているのか)を言語化してるのかなと感じています。Culture Deckのように、Value部分に相当する文章が詳細にかかれていればなお文化の可視化ができます。

組織文化の変え方

組織文化を変えるなんてそんな大きな話、不可能のように感じます。少なくとも一技術者がやることではないのではないか、という気持ちにもなってしまいます。システム思考家のジョンセドンも「組織の文化を変えようとする事は愚かな試みです。なぜなら、そのような試みは常に失敗するからです。」と明言しています。しかしAgile界の巨匠であるクレイグラーマンは、ラーマンの法則において「文化は組織構造に従う」という言っており、またジョンセドンも上述に続き「人々のふるまい(文化)は体制により作られるからです。もしあなたが体制を変えれば人々のふるまいは変わるでしょう。」と続けています。文化を変えるためには組織構造を変えることが唯一にして必須の条件となることがわかります。
実際にこのラーマンの法則を目で見てきましたし実行もしてきました。過去に記事も書いてます(Drivemodeでも、他のリーダーたちの多大な協力のおかげもあり、順調にプロダクト(フィーチャー)組織が定着してきました)。
kakkablog.hatenadiary.jp

プロセス・ルール・ガイドライン

組織文化の基礎固めを行ったら、そこに載せるプロセス・ルール・ガイドラインも考えることができます。たとえここの導入が間違っていたとしても、文化のコアな部分がぶれていなければプロセスも自ずと正しい方向に導かれるようになるはずです。組織がコントロール可能であるにも関わらず、スケールの大きさや難易度からコントロールできていない制約条件により、妥協してしまっているプロセスがあれば、まだ構造や文化が未完成であると考えられます。

DX Criteria

さて、まだどうやってAgilityを圧倒的にあげるのか、というセクションが続いているわけですが、世の中にはDX Criteriaという素晴らしいものがあります。日本CTO協会が監修・編纂している企業のデジタル化とソフトウェア活用のためのガイドラインで、デジタル技術を企業が活用するために必要な要素を多角的かつ具体的に体系化したものです。しかもこれは単に一部の人の思い込みで作られたわけではなく、世界中のソフトウェア開発やデザイン思考、マネジメント理論や組織論などの名著などを参考文献とし、実際に世界の最先端で実践されている内容を集約したものになっています。そんなDX Criteriaでさえ完璧ではないと考えられており、というか時代とともに変えなくてはいけないと考えられており、アップデートする前提で作られています。
しかしながらDX Criteriaでスコア化されたものは、あくまでも表面に現れる具体的現象のことが可視化されたのであり、各項目が直接的なDXの課題とは限りません。要するに、DX Criteriaのスコアを伸ばそうと思ってアクションプランを立てる際、多数の項目の根本となる課題が深層に根付いてることがあります。故にそれをまず取り除かなくてはなりません。
この記事でここまで考えてきたビジネス戦略、組織構造、マネジメント、人事、採用、カルチャー、プロセスなどの土台を整えて初めてDX Criteriaを基準として改善していけるのではないかと私は考えています。ここまでの抜本的な対策を行った上で土台を整え(この時点で結果的にスコアは一定まで上がるはず)、あとは独立した各項目を具体的に実践していくことで更により良いデジタル企業へと変革していけるものかと思います。
しかしこのCriteria、デジタル企業でも達成するのは至難の技であり、目指すところとしては申し分ないくらいに理想的で遠い存在です。参考までにDXリーダー企業がスコアをオープンにされていますので載せておきます。
DX Criteria ver.201912を使ってVOYAGE GROUPとfluctを自己診断してみました。 - VOYAGE GROUP techlog
単なる流行に飛びつくのではなく、戦略的に“データ駆動経営”を進める。 | DX解体新書 メルカリ編
FinatextさんもCTOAアドベントカレンダーの昨日の記事で紹介されています。
medium.com


もちろん一つ一つがとても重たく、大変なことであることは変わりないでしょうし、だからこそ大勢の組織が長い時間かけて取り組んでいるのだと思います。

DXの成功確率は低い。その要因は?

マッキンゼー企業変革調査(McKinsey TransformationalChange Survey)によると、企業の変革全般での成功率が30%程度と言われている中、DXにおいてはその成功率は半分程度の16%にとどまっており、どう考えても成功率が低い変革なのです。確かにここまで考えて、だれがこれできるんだと思ってしまいます。
さらに、DXの障壁となっているのは、技術的なものではなく、経営者のコミットメントや理解度、企業の文化やデジタル人材の不足といった、人・組織にまつわる要因が上位である、という結果が出てます。DXがあまりにも抽象度が高く、トレンドワードを多数含む概念なので、上記の様に土台を作らずにプロセス入れたりとか、システム変えたりとか部分最適した結果変わりませんでしたとなることもパターンとしてはあるのかなと思います。
結局これだけ広範囲なことを変革する必要があるので、プロジェクト自体がCEOやCTO/CIO案件にならざるを得ません。
CEOやCTO/CIOだけで二人三脚で進められるような広範囲な知識や経験、時間があるのであれば、比較的やりやすいと思いますがそんな会社は、すでに皆さんご存知のデジタル企業なのだろうと思います。

でもやらなきゃいけない

組織のAgilityを圧倒的に高める事によって、不確実で変化の激しい今後のビジネスにおいて高い競争力で利益を上げていかないと、生き残れないですから。